No.252020.10.1
(令和2年10月1日更新)
「働き方改革」の施策の1つである「副業・兼業の促進」に関する「副業・兼業の場合の労働時間管理、健康管理」を法的にどの様に扱うのかという点について以下にまとめます。
まず、労働基準法第38条第1項に於ける「労働時間は、事業場を異にす る場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と明示されております。
この労働時間の通算は、自らの事業所の労働時間制度を基に、労働者からの申告等により把握した他の使用者での事業場の労働時間を通算することにより行うということです。
上記での通算した結果、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が時間外労働となります。 但し、時間的に後から労働契約を締結した使用者における当該超える部分が時間外労働となります。
<通算の手順に関して>
所定労働時間の通算に加え、副業・兼業(以下「副業等」という)の開始後に、自らの事業場の所定外労働時間と他の使用者の事業所の所定労働時間とを所定外労働が行われた順に通算し、自らの事業所の労働時間制度における法定労働時間を超える部分の有無を確認します。
上記の通算の結果、自らの事業場の労働時間制度における法的労働時間を超える部分がある場合は、その部分が時間外労働となります。
他の使用者の事業場の実労働時間は、法を守るため把握する必要がありますが、必ずしも日々把握する必要はなく、法を遵守するために必要な頻度で把握すれば事足ります。
事業主の義務として以下の内容が求められています。
【就業時間の把握】
・労働者が労働時間等を申告しやすい環境を整備する観点から、副業等に係る相談、自己申告等を行ったことによ
り、当該労働者について不利益な取扱いをすることはできないこと。
・健康確保の観点からも、他の事業場における労働時間と通算して適用される労働基準法の時間外労働の上限規制を
遵守すること。
また、それを超えない範囲内で自らの事業場及び他の使用者の事業場のそれぞれにおける労働時間の上限を設定す
る形で副業等を認めている場合においては、自らの事業場における上限を超えて労働させないこと。
・使用者の指示により副業等を開始した場合は、当該使用者は、原則として、副業等の事業所先の使用者との情報交
換により(それが難しい場合は、労働者からの申告により)把握し、自らの事業場における労働時間と通算した労
働時間に基づき、健康確保措置を実施することが適当であること。
また、実効ある健康確保措置を実施する観点から、他の使用者との間で、労働の状況等の情報交換を行い、それに
応じた健康確保措置の内容に関する協議を行うことが適当であること。
なお、簡便な管理として、労働者と本業先の使用者及び副業等の先での使用者間で、事前に各事業所における労働時間の上限を取り決めし、時間外労働と休日労働の各上限の合計が単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる設定であれば、他の使用者の事業所における実労働時間の把握が必要なくなり、労働基準法第36条の遵守となり得ます。
【使用者責任】
違法な偽装請負の場合や、請負であるかのような契約としているが実態は雇用契約だと認められる場合等においては、就労の実態に応じて、労働基準法、労働安全衛生法等における使用者責任が問われます。
【健康確保】
・労基法第38条では、使用者は、常時使用する労働者(通常労働者の1週間の所定労働時間の3/4以上の短時間労働者
を含む)に対して、定期健康診断及びストレスチェックの実施が義務化されています。
なお、実施対象者の選定にあたり、副業等の事業所先での労働時間の通算は不要とされています。
・使用者が労働者の副業等を認めている場合は、健康保持のため自己管理を行うよう指示し、心身の不調があれば都
度相談を受けることを伝えること、副業等の状況も踏まえ必要に応じ法律を超える健康確保措置を実施することな
ど、労使の話し合い等を通じ、副業等の労働者の健康確保に資する措置を実施することが適当であること。
・労働者が使用者に対して他の使用者の事業場の業務量、自らの健康の状況等について報告することは、企業による
健康確保措置を実効あるものとする観点から有効であること。
特に、近時での採用が多くなっている副業等におけるテレワーク環境下では、管理監督者は労働者の業務遂行状況等の現認が出来ないことから、健康障害を防止する観点からも、使用者には安全配慮義務が求められています。
また、過重労働が疑われる場合には、時間外労働を抑制する、更なる健康診断を受診させる、時には副業等の許可を取り消すという管理も必要であります。
【求職活動】
・労働者が副業等の事業所先の求職活動をする場合には、就業時間、特に時間外労働の有無等の副業等の事業所先の
情報を集めて適切な就職先を選択することが重要であること。
なお、適切な副業等の事業所先を選択する観点からは、ハローワークにおいて求人内容の適法性等の確認を経て受
理され、公開されている求人について求職活動を行うこと等も有効であること。
以上となりますが、厚生労働省から本年9月1日複数就業者に対する改正労災保険法の施行に合わせ、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改訂版が公表されていますので、関心のある事業主の方は、一読しておいて下さい。