No.262020.11.1

労使紛争での最近の最高裁判決

 (令和2年11月1日更新)


日本郵便訴訟 待遇格差是正へ(10月16日) 
日本郵便の契約社員らが正社員との待遇格差について、各地裁に起こした3つの裁判(東京、大阪、佐賀)について、最高裁は、審理対象になった5項目の無期契約労働者に対して、年末年始勤務手当12月29日から翌年1月3日)、年始期間の勤務に対する祝日給祝日割増賃金及び、扶養手当を支給する一方で有期契約労働者に対してこれらを支給しないという労働条件の相違がそれぞれ労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たるとされた。 

また、無期契約労働者に対しては夏期休暇及び冬期休暇を与える一方で有期契約労働者に対してはこれを与えないという労働条件の相違及び私傷病による病気休暇として無期契約労働者に対して有給休暇を与える一方で有期契約労働者に対して無給の休暇のみを与えるという労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとされた。 
 

<以下、判決理由の要約> 

年末年始勤務手当は、最繁忙期であり,多くの労働者が休日として過ごしている年末年始の期間において,有期雇用労働者も同業務に従事したことに対し,その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有すると判断された。 

年始期間の勤務に対する祝日給祝日割増賃金)は、年始期間の勤務に対する祝日給は,特別休暇が与えられることとされているにもかかわらず最繁忙期であるために年始期間に勤務したことについて,その代償として,通常の勤務に対する賃金に所定の割増しをしたものを支給することとされたもので、有期雇用労働者に認めないのは、不合理であると結論付けた。 

扶養手当は、無期契約労働者が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから,その生活保障や福利厚生を図り,扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて,その継続的な雇用を確保するという目的あったが、半年から1年単位で契約更新を繰り返してきた原告ら有期契約労働者も「継続的な勤務が見込まれる」と指摘。支給しないのは「不合理だ」と判断した。 

夏期休暇及び冬期休暇に関しても、郵便の業務を担当する無期契約労働者と同業務を担当する有期契約労働者との間に労働契約法20 所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に夏期冬期休暇に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価されました。 

病気休暇は、郵便の業務を担当する有期契約労働者についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の病気休暇を与えることとするというべきであるとされた 

 

 最高裁「不合理とまで評価せず」 大阪医科薬科大/メトロコマース訴訟(10月14日)

最高裁は、非正規従業員に退職金賞与を支払わないことの是正が争われた2件の裁判の上告審において、いずれも「不合理とまでは評価できない」との判断を示した。 
この裁判は、無期契約労働者に対して退職金を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が有期契約労働者退職金を支給しないことに対する合理性を争われたものです。 

労働者側の主張根拠は旧労契法20条(現パ有法8条) 。 

一審では不合理と認めなかったが、一転、高裁では「無期契約労働者の4分の1すら支給しないのは不合理」と判断し、有期契約労働者への退職金支給を求める初判断として注目されました。 
しかし、最高裁では逆転判決となり、「無期契約労働者に対して退職金を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が不合理と認められるものに当たらない」としました。 

賞与は、財務状況を考慮しつつ支給され、賃金後払い、功労報奨的な趣旨を含む。そして、無期契約労働者の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば、賞与は、無期契約労働者としての職務を遂行できる人材を確保し、定着を図る目的で支給しているいわゆる有為人材確保論(無期契約労働者を厚遇することで有能な人材の獲得定着を図る考え方)」を採用し、職務内容が異なる事情を考慮して、不合理とはいえない、という判断に至ったのです。 

 但し、有期契約労働者が、無期契約労働者と同じ責任の重さ、或いは異動の範囲で働いていなかった、すなわち同一労働でなかったことを理由として、無期契約労働者との間に待遇差があることを「やむなし」とされたにすぎないということで、今回の最高裁判決は、同一労働同一賃金という考え方を否定したものでなく、個別の事情に従って判断した結果ということが出来る。 
 

東京大学の水町勇一郎教授(労働法)は「判決は同一労働同一賃金ルール関連の法改正前の議論に基づいた判断で、働き方改革の流れに逆行している」とした上で「賞与を非正規労働者にも支給する企業も出てきている。企業には多様な働き方を認め、能力のある人を生かしていくことを期待したい」と求めた。

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