No.612023.10.1

年収130万円の壁

(令和5年10月1日更新)

 

  10月から政府は、「年収130万円の壁」に関し、雇用主が一時的な増収だと証明した場合、130万円を超えたパート労働者ら(以後「パート」という)について、連続して2年までなら扶養にとどまれる「年収の壁」対策に関する支援強化パッケージを9月27日に正式発表いたしました。なお、この130万円という年収から「130万円の壁」と呼んでいます。


 現行の被扶養認定でも、一時的に年収見込みが130万円を超えても、直ちに認定を取り消さず、将来の年収見込みから総合的に判断するルールとなっています。なお、扶養の最終的な判断は保険者によりますが、一時的にたまたま130万円を超えた場合は、超えた年について扶養の認定は取り消されないことが多いと考えます。つまり、雇用契約書や雇用条件通知書で時給又は勤務時間の増加が認められない場合は、その年の扶養は取り消されないと解釈できると思われます。ただ被扶養認定に関し、十分理解されていない面もあり、政府として具体的に示すことで、周知を図る狙いもありました。


 これまでは、法律上、従業員100人以下の場合、年収130万円以上になると扶養から外れ、自ら社会保険料を納める義務がありました。

 その為、多くのパートにおける実際の手取り収入の減少という問題が生じ、それを避けるべく、パート間で「就業調整」が発生し、働く時間を短くすることで、年収130万円未満に抑えることが頻繁に行われてきました。

 また国会等においても、130万円の壁を超えることで、手取りが減る一方、将来的に受け取れる年金額が変わらないため、パートの人手不足に拍車をかけていると問題視する声も出てきていました。

 政府は、今回の支援強化パッケージの発表により、「就業調整」による人手不足の緩和を図ることとしました。

 

 扶養された人が従業員101人以上の企業で週20時間以上働き、年収106万円を超すと、自ら社会保険に加入することになる「106万円の壁」とともに、就労を阻む課題の一つとされてきました。

 ただし、「年収の壁」での抜本的な制度の見直しは、2025年に予定する年金制度の法改正に向けて検討していくとしました。

 

 なお、民間のシンクタンク、野村総合研究所が2022年9月に行った調査では配偶者がいてパートとして働く全国の20歳から69歳の女性およそ3000人のうち、61.9%が、「就業調整」をしていると回答し、38.1%の「調整していない」を大きく上回りました。

 さらに年収の壁を超えても手取りが減らないのであれば年収が多くなるよう働きたいかと尋ねたところ、とてもそう思うが36.8%、まあそう思うが42.1%とあわせて80%近くが、年収が多くなるように働きたいと考えていることがわかりました。

 


~ご参考~

 年収の壁・支援強化パッケージ 
  令和5年9月 27 日 厚生労働省

 

<はじめに>

〇「こども未来戦略方針~次元の異なる少子化対策の実現のための「こども未来戦略」の策定に向けて~」(令和

 5年6月 13 日閣議決定)では、持続的な成長を可能とする経済構造を構築する観点から「成長と分配の好循

 環」(成長の果実が賃金に分配され、セーフティネット等による暮らしの安心の下でそれが消費へとつながる)

 等の実現を目指すこととされている。

〇今年は 30 年ぶりの高い水準での賃上げであった。また、地域別最低賃金額の全国加重平均は 1004 円となり、

 政府目標 1000 円を達成した。

〇こうした中、中小企業・小規模事業者も含め賃上げしやすい環境の整備に 取り組むとともに、フルタイム労働者

 だけではなく、短時間労働者にもこのような賃上げの流れを波及させていくためには、本人の希望に応じて可能

 な限り 労働参加できる環境が重要である。

〇併せて、我が国では、2040 年にかけて生産年齢人口が急減し、社会全体の労働力確保が大きな課題となる。既

 に、企業の人手不足感は、コロナ禍前の水準に近い不足超過となっており、人手不足への対応は急務である。

〇本人の希望に応じて可能な限り労働参加できる環境づくりは、こうした人手不足への対応にもつながるものであ

 る。

<現状と課題解決の方向性>

 

〇労働者の配偶者で扶養され社会保険料の負担がない層のうち約4割が就労している。その中には、一定以上の収

 入(106 万円または 130 万円)となった場合の社会保険料負担の発生や、収入要件のある企業の配偶者手当が

 貰えなくなることによる手取り収入の減少を理由として、就業調整をしている者が一定程度存在する。

〇こども未来戦略方針においても、「いわゆる106 万円・130 万円の壁を意識せずに働くことが可能となるよう、

 短時間労働者への被用者保険の適用拡大、 最低賃金の引上げに引き続き取り組む。」、「こうした取組と併せ

 て、人手不足への対応が急務となる中で、壁を意識せずに働く時間を延ばすことのできる環境づくりを後押しす

 るため、当面の対応として、(中略)支援強化パッケージを本年中に決定した上で実行し、さらに、制度の見直

 しに取り組む。」とされている。

〇このため、当面の対応として、本年10 月から、
(1)106 万円の壁への対応(①キャリアアップ助成金のコースの新設 ②社会保険適用促進手当の標準報酬算定

   除外

(2)130 万円の壁への対応(③事業主の証明による被扶養者認定の円滑化
(3)配偶者手当への対応(④企業の配偶者手当の見直し促進)を進め、年収の壁を意識せずに働くことのできる

   環境づくりを後押しするとともに、さらに、制度の見直しに取り組む。

〇このほか、設備投資等により事業場内最低賃金の引上げに取り組む中小企業等に対する助成金(業務改善助成

 金)の活用も促進する

 

<具体策>


(1)106 万円の壁への対応
①キャリアアップ助成金のコースの新設

〇短時間労働者が、被用者保険に加入して働き続けることは、当該労働者の 処遇改善や本人のキャリアアップにつ

 ながり得るとともに、当該労働者が就業調整をせず働くことで企業の人材確保にもつながる。実際、企業独自に

 年収の壁を超える際の労働者負担分の保険料の補助を実施することを契機として、短時間労働者の業務の幅が広

 がり、より基幹的な労働者として活躍し、企業の生産性向上につながった例も存在する。

〇このため、キャリアアップ助成金を拡充し、短時間労働者が新たに被用者保険の適用となる際に、労働者の収入

 を増加させる取組を行った事業主に対して、複数年(最大3年)で計画的に取り組むケースを含め、一定期間助

 成(労働者1人当たり最大 50 万円)を行うこととする。

〇助成対象となる労働者の収入を増加させる取組には、賃上げや所定労働時間の延長のほか、被用者保険の保険料

 負担に伴う労働者の手取り収入の減少分に相当する手当(社会保険適用促進手当)の支給も含めることとする。

 また、支給申請に当たって、提出書類の簡素化など事務負担を軽減する。

 

社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外

〇短時間労働者への被用者保険の適用を促進する観点から、被用者保険が適用されていなかった労働者が新たに適

 用となった場合に、事業主は、当該労働者に対し、給与・賞与とは別に「社会保険適用促進手当」を支給するこ

 とができることとする。

  ※当該手当などにより標準報酬月額・標準賞与額の一定割合を追加支給した場合、キャリアアップ助成金の対象

  となり得る。

〇また、被用者保険の適用に係る労使双方の保険料負担を軽減する観点から、社会保険適用促進手当については、

 被用者保険適用に伴う労働者本人負担分の保険料相当額を上限として、最大2年間、当該労働者の標準報酬月

 額・標準賞与額の算定に考慮しないこととする。

 ※同一事業所内において同条件で働く他の労働者にも同水準の手当を特例的に支給する場合には、社会保険適用

  促進手当に準じるものとして、同様の取扱いとする。
 

(2)130 万円の壁への対応

③事業主の証明による被扶養者認定の円滑化

〇被用者保険の被扶養者の認定に当たっては、認定対象者の年間収入が130万円未満であること等が要件とされて

 いるが、一時的に収入が増加し、直近の収入に基づく年収の見込みが130万円以上となる場合においても、 直ち

 に被扶養者認定を取り消すのではなく、総合的に将来収入の見込みを判断することとしている。

〇被扶養者認定においては、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等を確認することとしているところ、一

 時的な収入の増加がある場合には、これらに加えて、人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動で

 ある旨の事業主の証明を添付することで、迅速な認定を可能とする。

 

(3)配偶者手当への対応
④企業の配偶者手当の見直し促進

 〇収入要件がある配偶者手当の存在が、社会保障制度とともに、就業調整の要因となっている。その見直しに向け

 ては、労働契約法や判例等に留意した対応が必要であるとともに、企業等が見直しの必要性・メリット・手順等

 の理解を深めることが必要。

 〇このため、令和6年春の賃金見直しに向けた労使の話合いの中で配偶者手当の見直しも議論され、中小企業にお

 いても配偶者手当の見直しが進むよう、見直しの手順をフローチャートで示す等わかりやすい資料を作成・公表

 する。

〇収入要件のある配偶者手当が就業調整の一因となっていること、配偶者手当を支給している企業が減少の傾向に

 あること等を各地域で開催するセミナーで説明するとともに、中小企業団体等を通じて周知する。

 

                                     以上

 

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